ここは落ち着いた大人の街“奥渋谷”と呼ばれる地域、宇田川町にある『あじゅう田』。

凛とした空間に伸びる、檜の1枚板カウンターテーブルに添えられているのは、RitzwellのダイニングチェアMARCEL(マルセル)。直線で構成された店内において、波打ち際のようなラインを演出する。
2021年4月にオープンした『あじゅう田』は、江戸前鮨とワインとのマリアージュが楽しめる、今注目のお店だ。
今回は料理へのこだわりとお店づくりについて、大将の阿重田 博紀さんにお話を伺った。

向き合う

阿重田さんは調理学校在学中に単身フランスに渡り、1ヶ月間レストランの厨房や、イタリアの牧場でモッツアレラチーズの製造現場などを見て回ったそうだ。
当時はまだジビエ料理に馴染みが無かった日本から来た青年を戸惑わせたのは、ウサギやキジ、鳩までも食する習慣。

「野獣臭いのも香草も苦手だったから、正直あまりおいしいとは思えなかったですね。今なら美味しく頂けますけど。まだ若かったし、“うわぁこれと向き合うのかぁ、困ったなぁ”って(笑)」。

帰国後は割烹料理屋で4年間。それから高級鮨屋から街角の鮨屋まで数々のお店で修行を重ねた阿重田さん。鮨を知る、魚と向き合うためには数をこなさなければいけないという信念があったそうだ。

「高級店だと鮨の数がそれほど出ないし、親方が握っちゃうと出番がないから、町場の鮨屋でも修行しました。自分なりにきっちり仕事をすれば良い修行になるし、とにかく鮨は“反復”が大事だと思ってやってました」。

札幌に旨い鮨屋があると聞けば電車で12時間かけて日帰りで食べに行ったり、人気鮨屋の味を分析して昆布締めの時間まで当ててしまうほど、鮨職人としての舌と技量を身につけていった阿重田さん。

「私は固定概念なくフレンチの調理法でも躊躇なく鮨に応用しますが、それでも自分は料理人というより、やっぱり鮨職人だと思ってます。今後もとことん魚と向き合いたい。尊敬できる先輩方もたくさん見てきましたが、それぞれに培ってきた技があって哲学みたいなものがある。参考にはしますけど真似はしません。真似ごとをひとつでもやると、それに頼ってしまうし自分の鮨ではなくなるので」。

なんと奥深い話だろうか。鮨に限らずものづくりにも共通する気がする。さて、次にお鮨にワインをペアリングする理由を尋ねてみた。

ニューワールドな鮨

「最近はモダンな日本酒も増えてきましたけど。やっぱりお鮨との相乗効果が少ないと感じていました。ワクワクが足りない。例えばフレンチで料理に添えるソースのような感じで、ワインを合わせるとおもしろいんじゃないかと。意外とクラシックな鮨ネタにもワインは合うんですよ。さばや光り物にピノ・ノワールを合わせたり」。

マグロに赤ワインはイメージしやすいかも知れないが、全てのネタにワインを合わせる工夫があるのだろうか?

「実はワインに合うように、米の品種、酢の配合まで変えてます。要はワインに合うように鮨の方を変えてます。塩も国産のものはミネラル感が薄いので、味付けにはヨーロッパの岩塩などを使います。シャリにもフレッシュな甘みが欲しいので新米を使います。鮨の常識では基本的に古米なんですけどね。シャリも酢が揮発する分量が安定するように、木桶は使わずにボウルを使ったり、ガス釜ではなく電気釜で。しかも五合ずつ炊きます。これも常識外れと言われるかも知れませんが、私は不確定要素をできるだけ排除したいんです。シャリがブレたら意味がないので」。

まるで鮨の科学者だ。ちなみにシャリの温度はネタごとに全部変えるという徹底ぶり。アジ、イワシ、コハダ、マグロ。脂の乗り具合、握るタイミングで全て調整するという。それこそが職人技なのでは!?
次にワイン選びのこだわりを尋ねた。

「基本的に銘柄や価格では選びません。すべて味をチェックして選びます。特にうちの鮨はニューワールドのワインに合うイメージなので、コストパフォーマンスは良いと思いますよ。最高のマリアージュになるようなワインを、ソムリエと一緒に選んでいます」。

空間とのペアリング

お客様のくつろぎの時間を何よりも大切にしているという『あじゅう田』。お店づくりのポイントはどういうところだろうか。

「うちは鮨も握るけど、大枠で言えば“うまいもの屋”です。だからコンセプトに“鮨屋感を少し外す”ということがありました。お願いした建築デザイナーさんもイタリアンや中華の店舗はやったことあったけど、ちょうど鮨屋もやりたいって思ってたみたいで、付け台や椅子のこと以外はほぼお任せしました。鮨屋って四角い椅子のイメージだと思うけど、お客さんはずっと正面を向いてお鮨を食べたりしないでしょう(笑)。接待やデートにも使って欲しい。だから隣の人ともくつろいで向き合えるように、RitzwellさんのMARCELを選ばせてもらいました。デートでも接待でも成功して欲しいので(笑)」。

確かにMARCELなら、隣の人と語りながらくつろぐこともできる。そもそもそのような設計思想から生まれた椅子だからだ。和・洋を問わず、モダンな空間にも、そしてもちろん邸宅での日常にもフィットする。

「鮨を握る美しい所作に憧れて鮨職人になった私ですが、MARCELとは、なんだか呼応するような気がするんです。特に後ろ脚から背もたれへ続く曲線美は、3次元的なのに無駄がないじゃないですか。似てるんですよ鮨を握る意識と。お客様には美しい空間で、くつろいで食事を楽しんで頂きたい。そして時々、カウンターの中も見てもらって、私の所作も美しいと思ってもらえたら何よりです(笑)」。

「鮨屋の中には大将と近しい空間づくりのために、付け台が低いお店もありますが、うちはお客さん同士のプライベートな空間も守ってあげたいので少し高く(16cm)しています。そこはデートでも重要でしょう(笑)」と阿重田さん

最後に阿重田さんの今後の目標を聞かせていただいた。

「目標…は、鮨といえば渋谷!って言われるくらい鮨の聖地にしたいですね。あと、星がひとつでも頂けると嬉しいですね。でも特に星を目標にしている訳ではなくて、これまで自分が信念と共にやってきた仕事が、お客様に少しでも認められるのなら、それが何より嬉しいですね」。

お話が分かりやすく、伝えるのが上手な阿重田さん。鮨とワインのペアリング研究者のようなひたむきさが印象的だった。

ワインカーヴを備えた店内に、阿重田さんの美しい所作と、包み込むようなカーブを描くMARCEL。これは空間とのペアリングだ。
今度はぜひお客として訪れたい『あじゅう田』。“おいしい化学変化”を体感できるはず!

あなたがMARCELの椅子に身を委ね、おいしい鮨とワインと、親密な時間を共に過ごしたいと思い浮かんだ顔は誰だろうか?

あじゅう田
東京都渋谷区宇田川町37-15ファザーランド渋谷2-B1F
tel.03-6804-7095

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